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MQAで聴くクラシックの名盤

第16回



マリア・カラスとトスカが

一体となる瞬間、

心が震える!

 文:野村和寿


 遠い昔中学生の頃、音楽の授業でオペラのレコードをひたすら聴いて、ストーリーを夢想し、心震えた体験をした。オペラの世界は大海原のごとくあまりに大きく、いったい何処から手をつけてよいやら、はたと困ってしまうことはありはしないだろうか? ストーリーを読んで音楽を聴いて、心にオペラを紡ぎ出す。歌姫トスカを演じるのはディーヴァ(歌姫)、マリア・カラスその人である。

 

 

 プッチーニ 歌劇『トスカ』全3幕 

 

録音

1953年8月10日から20日

イタリア・ミラノ・スカラ座でモノラル・セッション

主な配役

トスカ/マリア・カラス(ソプラノ)

カヴァラドッシ/ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テナー)

スカルピア/ティト・ゴッビ(バリトン)

アンジェロッティ/フランコ・カラブレーゼ(バス)

演奏

ミラノ・スカラ座管弦楽団及び合唱団

(合唱指揮:ヴィットーレ・ヴェネツィアーニ)指揮:ヴィクトール・デ・サバータ

 

音源提供 ワーナークラシック・ジャパン 

ハイレゾ提供 e-onkyo music 

https://www.e-onkyo.com/music/album/wnr825646254316/

ファイル形式 

MQA Studio 96kHz/24bit 

2014年、英アビイ・ロードスタジオでオリジナル・アナログテープより96Hz / 24bitで作成されたデジタル・リマスター音源より最新MQAエンコード

¥2,515

◎実際の販売価格は変動することがあります。価格は税込価格(消費税10%)です。


今から半世紀以上も前、中学2年生だった私は、音楽の時間に3ヶ月をかけて、ビゼーのオペラ『カルメン』のレコードを聴いたことがあります。音大・声楽科出の、熱血音楽教師・森谷先生が、「1つくらいはオペラを知らなきゃいけない」とおっしゃって、当時、発売されたばかりの赤い分厚いジャケットのEMI(現ワーナークラシック)の『カルメン』のレコードからその日に聴く箇所のあらすじを説明して、少しずつでしたが音楽の授業時間ごとに聴いていくことになりました。

 

クラスメイトたちは、最初はオペラがなんだかよくわからずに閉口していましたが、そのうち、メロディーで知っているところが登場すると口ずさんだりして、楽しくなっていきました。それでオペラ全曲聴き通すのに3ヶ月も掛かったのです。カルメン役はマリア・カラス、ホセ役はニコライ・ゲッダ。そのとき50年以上も経っているのに、映像ではなくレコードの音楽だけの体験でさえも、オペラ『カルメン』のマリア・カラスの劇的な歌いっぷりとともに、オペラの筋も明瞭に覚えているのです。

 

マリア・カラス(1923−1977年)  Wikimedia
マリア・カラス(1923−1977年) Wikimedia

 

オペラは、筋をともなった音楽です。それだけに、最初はなかなか敷居が高く、入りにくいかも知れなません。やはり、一応物語の筋がわかっていたほうが、音楽に入り込みやすいと思います。

 

今回、取り上げるイタリアの作曲家ジャコモ・プッチーニ(1858-1924年)のオペラ『トスカ』(1899年作曲)をとっかかりとして、どうぞオペラの世界に親しんでいただきたいと思います。一度オペラの世界にはまると、これはもう一生ものの世界に踏み込むことになると思います。さっそくオペラ『トスカ』の背景を説明していくことにしましょう。

 

第1幕

 

舞台は、1800年6月17日 まだ小国に分列していて統一されていなかった頃のイタリア・ローマが舞台です。サンタンジェロ城の牢獄から1人の政治犯(共和派)が脱獄してくるところから物語は始まります。サンタンジェロ城は、ローマを見渡すカンピドリオの丘の西側に位置し、ローマを東西に分けているテヴェレ川を渡ったところ、バチカンのサンピエトロ寺院のすぐ手前に現在でも建っています。

 

当時のサンタンジェロ城は、政治犯の監獄として使われていました。脱獄囚の名前はチェーザレ・アンジェロッティ(バス=フランコ・カラブレーゼ)。2年前にはフランス革命の余波で誕生しまたすぐに崩壊してしまったローマ共和国の統領(コンソレ)を務めていた共和派の重要人物。妹のアッタヴァンティ侯爵夫人(オペラには登場せず)の手引きで、脱獄し、1㎞離れた大きなアンドレア・デッラ・ヴァッレ教会へと駆け込んできて身を寄せます。

アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会(ローマに実在する)
アンドレア・デッラ・ヴァッレ教会(ローマに実在する)

 

教会の中には、貴族たちのプライベートな礼拝堂がいくつも設えてあって、アンジェロッティは、脱獄してまず、アッタヴァンティ家の礼拝堂に身を寄せようとしたのでした。この教会で、『マグダラのマリア』(新約聖書に登場するイエスの遺体に香油を塗ったとされる聖人)の聖画を描いているのが、画家のマリオ・カヴァラドッシ(テノール=ジュゼッペ・ディ・ステファノ)です。カヴァラドッシ自身は、どちらかといえば共和国派ですが、歌姫トスカと毎日のように会いたいためにこの教会に寄宿していたのです。

 

カヴァラドッシは、『マグダラのマリア』の絵のモデルに、毎日のように礼拝に訪れていたアッタヴァンティ侯爵夫人の顔を模写して描いていたのです。侯爵夫人は、実は、兄のアンジェロッティの逃亡を手助けする準備のために、教会に日参していたのです。

 

カヴァラドッシは、描きかけの『マグダラのマリア』の絵を描きながら、「髪の毛が茶色だが、恋人であるトスカは、髪の毛が黒で、2人ともすごく美人だが、やはり、ぼくにとっては、髪の毛が黒いトスカのほうが美しい!」と歌います。(カヴァラドッシ=テノール「妙なる調和」トラック2)

 

『悔悛するマグダラのマリア (ティツィアーノの絵画)』Wikimedia  (1530〜1535年/ピッティ美術館)  マグダラのマリアを描いた絵画の一例です。この絵でもマグダラのマリアの髪は茶色ですね。
『悔悛するマグダラのマリア (ティツィアーノの絵画)』Wikimedia (1530〜1535年/ピッティ美術館) マグダラのマリアを描いた絵画の一例です。この絵でもマグダラのマリアの髪は茶色ですね。

 

 

カヴァラドッシは、脱獄囚アンジェロッティと礼拝堂でばったりと会ってしまいます。カヴァラドッシは、共和派なので、アンジェロッティを匿い、逃亡を助けようとします。そこで、カヴァラドッシのために教会の堂守が用意したパンとワインの食事をお腹の空いていたアンジェロッティに渡し、アッタヴァンティ家の個人礼拝堂にこれを食べて隠れているようにと頼みます。そこへ、歌姫トスカが登場です。

 

歌姫フローリア・トスカ(ソプラノ=マリア・カラス)は教会の外から「マリオ!・マリオ!・マリオ!」と叫びながら教会のなかへ。トスカはオペラの中でも歌姫の役柄となっています。

 

ここで「マリオ!・マリオ!・マリオ!」(トラック4)からカヴァラドッシとトスカの長い二重唱が始まります。

 

「マリオ!・マリオ!・マリオ!」とトスカが何度も呼ぶのには理由があります。通常、教会の正面のトビラは、朝から夕暮れまで信者のために開け放れているのです。にもかかわらず、トビラは閉まっていました。トスカは、カヴァラドッシが教会内にいることはわかっています。これはもしかして、カヴァラドッシが他の女性と逢い引きをしている?咄嗟にトスカの頭をよぎったのは嫉妬でした。

 

トスカが急にやってきたので、カヴァラドッシは、脱獄囚アンジェロッティをあわてて隠し、その場を取りつくろおうとします。歌姫トスカは、「急に決まった今晩戦勝コンサートが終わったら、郊外のカヴァラドッシの別荘へ2人でいって、夜空を観て過ごしましょう」と誘います。しかし、カヴァラドッシが描いている絵をみて、仰天します。それは、トスカの黒い目と髪ではなく、茶色い目と髪の美人でした。(次ページに続く)

 

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